<とまり木前夜>久恵編①
満員の通勤電車がいやだった。
たぶん、東京から離れたかった理由のひとつはこれだと思う。
思えば高校生の頃、電車が混んでいるのがいやで、始発電車に乗っていた。
自分のお気に入りの座席が決まっていて、他の乗客ともなんとなく顔見知りになって、
居心地がよかった。
片道35分の距離をそんなふうにして通学していた。
それとは別に、私は都会に憧れていた。
地方生まれにはありがちだと思うけれど、
なんでもあって、華やかな東京に行きたかった。住みたかった。
でもよく考えると、都会は人が多いのだ。
電車を利用する人の数も、田舎とは比べ物にならない。
福島の電車でへこたれていた私は、
あっというまに東京の通勤電車の雰囲気にのみこまれてしまった。
東京でも高校生の頃と同じく片道35分電車に乗っていた。
中央線快速も丸ノ内線も日比谷線も、ずっと人がたくさんいた。
ぎゅうぎゅうだった。
その人たちは、誰も何もしゃべらない。
隣の人と身体が触れ合っているのに、それぞれの人はひとりでそこにいるような。
ひとりの世界の中で、ただ電車が目的地に着くのを待っている。
どうにかして慣れようとしたけれど、私にはできなかった。
もう少し、人が少ない土地に行きたくなった。
電車のなかでも一息つけるような、そんな場所に行きたくなった。
だから東京を出ようと決めた。
つづく。