<土曜書評>「どうして僕はこんなところに」
2016/11/21
旅に出るときに必ず鞄に入れていく本だ。歯ブラシとか充電器とかそういうものと同じような位置づけにしている1冊である。
原題は「What am I doing here?」直訳すれば「僕はここで何をしている?」
旅に出ると、決まっていま住んでいる場所のことを考える。風景を見ては、身の回りないものを探したり、あるものを見つけたりする。不思議なもので、遠くに行きたかったはずなのに、近くのことばかり考えている。
それは、海外に行くとやたら日本のことを語りたがるのと似ているかもしれない。人は基本的に望郷の生き物だと思うことすらある。住むかどうかは関係ない。ただ、その自分を形作っているその場所を、愛憎綯交ぜにして憧れていたい生き物なのではないだろうか。
一方で、その情熱と同じぐらいに、まだ見ぬ世界へと移動する生き物でもあると思う。自分の知らないものと触れ、そのたびに自分が更新されていくことをやめられない。チャトウィンは、そんな人だったのだろうと思う。類稀なる観察眼と冷静な筆致なのに、見たもの、聞いたことへの興奮が伝わってくる。
「紀行作家」と呼ばれるのが嫌いだったらしいチャトウィン。この本もそうで、行く先々で見聞きしたものというよりも、それを通してチャトウィンその人に触れることができる。