<土曜書評>「旅をする木」
2016/11/21
今年の読み初めの本だ。この本を年初に読めて本当によかった。どの文章もひとりひとりに語りかけるような文章で、大切なことを慎重かつ雄弁に伝えてくれる。ずしんとくる言葉ではなく、少しずつ染み渡っていくような言葉たちだ。
星野さんがアラスカを目指すようになったわけを語る部分がた好きだ。カメラとピッケルを貸した友人が、登山中に遭難して命を落とす。星野さんは、命が限りあるものだということを学び「好きなことをやっていこう」という結論に達する。この部分は読むたびに、自分の足元を見つめ、自分はどう生きているかを問い直す。迷う自分に静かに勇気を与えてくれる、そんな部分だ。
いわきは雪が降らない。雪が降らない冬というのは、どうもしっくりこなくて、これから雪深い津軽に帰るのだからと、連想ゲームのように本棚を探していたところに、学生の頃に買ったこの本があった。さらに偶然だったのは、バスの経由地の仙台で入った居酒屋に、星野さんの写真集が置いてあって、よくよく聞けば、店員さんのひとりが大ファンなのだという。
そんな運命めいた2015年の締めくくりと2016年のはじまりだった。さらにいまふと思ったけれど「旅をする木」というタイトルじたい、私たちと通じるものがある。それを今年の始めに読めたのは、本当によかったなぁ。書いてみて改めて忘れられない本になった。