とまり木

時には枝のように、時には鳥のように

megum

読書の感想『サラバ!』

2018/11/20


物語は誰かが言葉を紡いだもの。
誰かの強い想いのもとで組み立てられていく文章は、その想いと同じくらい、もしかするとそれ以上に強い力を持っている。

主人公の生い立ちから現在までを書き綴った自叙伝。
どこにでもあるような家族、でも個性豊かだ。
父、母だけれど、それぞれの人生があること。
嫌悪していた姉によって気付かされること。
信じるものを探し続け、そして見つける。
「あなたの信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」
記憶の中にある大小さまざまな事柄。それらを繋ぐ音、匂い、景色。小説のなかの一節。
人に対する接し方、感じ方を強要することはできないし、すべきでない。

久しぶりの長編小説で、私は開けた。
ずっと家にいて息子と向き合う日々で、それはとても興味深く面白いのだけれど、うちにうちに向かっているような、私の思う健全さから離れているような気がしていた。
読書という個人的な活動はこの現状と物語のなかを瞬間的に行き来できる。
息子を寝かせた後に物語に入り込み、泣き声ですんなり戻って来られる。
おかげで心に余裕が生まれた。
常に全身の神経を注ぎ込むのは息が切れる。

良い本は読んでいて自分のために書かれたように思うことができる、とどこかで読んだ気がする。
『サラバ!』はまさにそんな本だった。

読んでいる途中からもっと本を読みたくなった。そして何かを書いてみたくなった。
読む本はたくさんあるし、書く場所もここにある。
知りたいし、浸かりたい。

登場人物と自分を比べて情けなくなったり、逆に頑張らなくてはという強迫観念のようなものが急激にわき上がったりすることがあるのだけれど、これはどうしてだか穏やかでいられた。物語の展開に一喜一憂はしたのだけれど、基本的には落ち着いて読み進められた。登場人物が全員完璧ではなかったからかな。優しい小説なんだなと思った。

書名 サラバ!
著者 西加奈子

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